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vol.10 08.6.10

資源を流出させるミネラルウォーター              

 我が常盤地域も田植えが終わり、のどかな田園に変わってきた。田んぼに水が張られた後には、

苗が小さく背伸びしている姿がけなげにみえる。田んぼのあぜ草が焼かれ、白い煙が草の匂いを運

ぶ。めぐる季節も6月となり、梅雨入り宣言も聞こえる。

梅雨といえば雨、雨といえば水である。世界では水論争や旱魃、台風に集中豪雨・・と水にまつわ

る話は沢山あるが、今回は、我々の日常の中で、誰もが飲むことのあるミネラルウォーターについ

て書こうと思う。


 今やミネラルウォーターは全ての場面で身近なものになっている。が、そのミネラルウォーター

は、国や政治、経済までも動かす力を持つ。たかが水されど水である。

 そこで、ミネラルウォーターの消費について調べてみる。地球規模のミネラルウォーターの消費

は、2004年には1540億�P(410億gal)に達している。これは、5年前の消費である980億�Pに比

べて約57%のアップだと報告書には記されていた。このことは、生水が飲むのに安全な地域でさえ

ミネラルウォーターを消費していることを示唆する。ミネラルウォーターの需要は、不必要なゴミ

を生産し、膨大な量のエネルギー消費を増加させつづける。市販されているミネラルウォーターで

さえ、生水と比べて少しも健全でないともいう。それは生水の10,000倍のコストがかかり、�P当

たり2.50ドル (gal当たり10ドル)もの大金を費やす。ミネラルウォーターには、ガソリン以上に

コストがかかっている。


 特に米国は、世界のミネラルウォーター市場を先導する消費者である。アメリカ人は1人当たり

およそ8オンスの1個のコップで、2004年には260億�Pを飲んだと統計されている。

この分析は、Virginia Water Resources Research Centerの資料によるものである。が、以

下の国々の消費は、驚くばかりである。


 メキシコは年間消費が180億�Pの、2番目に高い消費国である。中国とブラジルは120億�P近く

で、各々その後に続く。消費国の中で5番目と6番目に位置するのは、まさに100億�P以上のミネ

ラルウォーターを使用するイタリアとドイツである。イタリア人は、ほとんど人がミネラルウォー

ターを飲み、その量1日当たりコップ2杯以上である。2004年の統計では、1人あたりに直すと約

184�P増加している。メキシコとアラブ首長国連邦は、人当たり169�Pと164�Pを消費している。

ベルギーとフランスは145�P近くで、1人当たりの消費スピードは、年々加速する一方だという。

スペインは137�Pである。

興味深いのは、ミネラルウォーター消費量の増加傾向は、先進国のみの問題ではなく、大幅な増加

を示す国のいくつかは、発展途上国であるという点である。

分析を続けると、ミネラルウォーター消費のトップ15の国々の中で、レバノン、アラブ首長国

連邦、メキシコでは、1999年から2004年の間に1人当たりの消費量が44〜50%増加しており、

1人当たりの消費量の増加が、最も速く進んでいる。インドと中国は、均等割としては高くない一

方、どちらの国も人口が多いので、総消費としては、インドでは、この5年間で中国が倍になるよ

りも早く、3倍以上になっている。しかも、なお一層増加する可能性が大きい。そして、もし、中

国のすべての人が、1年間にミネラルウォーターを8オンスのコップで100杯飲む時がきたら、中

国は、瞬く間に世界のミネラルウォーター消費国のトップへと取って代わり、1年で約310億�Pの

ミネラルウォーターが消えることになる。


 これら統計は現実である。統計を裏付ける調査研究は、アメリカの幾つかの大学で行われている

ものである。このことから言えるのは、ミネラルウォーターの消費は、様々な温暖化促進の要素を

生み、時には大きな経済消費として、世界に波紋を投げかけるということである。ならば、どうす

るのか。この議論は始まったばかりでもある。


 例えば、生水(これは、エネルギー効率の良いインフラストラクチャーによって分配される)とは

対照的に、ミネラルウォーターは、長距離輸送にて各地へと運ばれる。それは、莫大な量の化石燃

料を必要としていることになる。全ミネラルウォーターの4分の1は、船、列車、トラックなどで

運ばれて、消費者に行き渡るために国境を通過しているという。別の資料によれば、2004年に

フィンランドのミネラルウォーター(Nord Water)には、ヘルシンキのウォータープラントから

4,300キロメートル(2,700マイル)離れたサウジアラビアに対して140万本ものボトルを運んだと

いう記録が記されている。問題なのは、ミネラルウォーターは、水不足の国々を相手には売られな

いことである。特にサウジアラビアは、必要な水を輸入する資金には余裕がある国だ。


 また、米国で売られたミネラルウォーターの約94%が国内で生産されている一方で、アメリカ人

は、より上品で魅惑的なミネラルウォーターへの需要を満足させるために、自国外の場所の水を約

9,000キロメートルをも輸送し、輸入しているという現実もある。また、ウォーターボトルを作る

ために、最も一般に用いられているプラスチックは、ポリエチレンテレフタレートpolyethylene

terephthalate (PET)である。が、それは原油に由来するはずだ。水のパッケージングでも化石燃

料が使用されていることになる。例えば、アメリカ人のミネラルウォーター需要を満たすためのボ

トルを製造するには、年間に100万台以上の米国車に燃料を供給するのと同じくらいの、1700万

バレル以上の石油を毎年必要としているという。世界的にみて、約270万トンのプラスチックが毎

年、水を詰める容器のために使用されているとは、不思議な話である。


 その一方で、水が消費された後、ペットボトルは処分されるに違いない。米国で使用されるプラ

スチック製ウォーターボトルの86%は、ゴミになるという。使用されたボトルを灰にすることは、

重金属を含む塩素ガスと灰のような有毒副産物を生産することになる。もちろんCO2も。仮に、で

は、埋めるとすると、ウォーターボトルが生物学的に分解するには、1,000年もかかることがある

と聞いている。米国は、2004年にリサイクル法を定めたが、ペットボトルの約40%は輸出されて

いる。輸出が増えれば、この製品によって使用される資源も増やすことになる。そして、現実に遠

く中国にまで移動するのである。


 ミネラルウォーターは、その生産と輸送を通じて我々の生態系へ負荷を加える。と同時に、この

産業の産業界における急成長は、水の採取がウォータープラントのある地域社会に集中することを

促す。そのため、例えば、ウォータープラント近隣で発生する水不足が、テキサスと北米のグレー

トレーク地域で報告されている。これはほんの一部の話である。水の採取により地下水が急速に 

減少したために、農業、漁業、その他、生計を水に頼る人々は、集中的な水の取水に苦しむという

結果が起こっている。

 消費者は、健全な生活とは身近にミネラルウォーターがあることだと思っている。がしかし、ミ

ネラルウォーターは、生水と同様に、健全性は保証されないと結論付けられている。それなのに何

の抵抗も無く買い求める我々は、無知以上の何者でもない。実際、ミネラルウォーターのおよそ

40%は生水として始まっている。また、ミネラルウォーターを買い求める多くの場合、ただ一つの

差は、ブランドマークのある健全なものと、ミネラルを追加補填したものであることも、多くの人

は知らない。例えば、フランスの上院は、様々な品質のミネラル・ウォーターが出回るために、飲

む人に対して、追加されたミネラルが小量であれば有益だが少しでも多くなると危険かもしれない

と、注意を呼びかけている。そして、特に、名高い銘柄のウォータープラントは、水の少ない地域

で、都市の水供給に対して、明らかに広範な被害を与える原因となる場合がある、ともコメントし

ている。


 実際、ヨーロッパや米国を含む多くの国々は、規則を設けて、ミネラルウォーターと同様、生水

の質を管理している。米国の環境保護局が設置した生水の水質基準は、例えば、FDA(Food

and Drug Administration:食品医薬品局)のミネラルウォーターに対する基準と同様、厳格

である。清潔で手頃な飲料水が我々の国際社会の健康にとって必要であることに疑問はない。しか

し、ミネラルウォーターは、高度に発展した世界中に対する唯一の答えとは言えない。また、安全

な給水不足という地球上の問題を解決していない。既存の水処理と衛生方法を改善し普及させるこ

とは、長期的に安全で持続可能な水の源泉を供給する可能性があるはずなのに、である。アメリカ

のある村では、新しいくぼみを掘って雨水を集めるが、却って、このような水の手頃な源泉利用を

引き起こす場合があるという。

 環境的サステイナビリティーを目的として、国連ミレニアム開発は、2015年までに飲料水に対

して持続可能な利用をしていない人の割合を半分にすることを目標に掲げている。が、この目標値

を達成するためには、現在世界中で給水と衛生管理に費やす年間150億ドルの2倍の費用が、必要

とされると会議では見積もられている。


 この総計は大きく見えるかもしれないが、それは、毎年、ミネラルウォーターに費やされる概算

1000億ドルと比較すればどうなのか、ということになる。


 長くなったが、我々の水と緑と土の研究もまた、水の影響から低影響開発を啓発している。草花

に於ける灌水システム、ゼリスケープの技術も、全ては水ら始まったことである。2003年の第

3回世界水フォーラム(京都会議)の際、閣僚との対話で私の席の隣には、カナダの環境大臣(当

時)とフランスのエビアン社の取締役が座っていた。私の提案はランドスケープから水教育考える

ことであったが、彼らと対話しつつ、水には国家から個人にいたるまでの多くの利権が絡んでいる

のは世界の周知事実であると深く認識させられた。それが水問題の解決を困難にしている。あれか

ら5年過ぎた今日、確実に水の問題は変化している。しかし問題の多くは、我々自身の問題である

ことは疑う余地も無い。まずは、ペットボトルのミネラルウォーターと環境は、最も身近な大きな

問題のひとつなのである。


 

兼久 

 

お薦めの本

ウォーター・ビジネス:中村 靖彦 著:岩波新書

ウォーター 世界水戦争 (単行本) マルク・ド・ヴィリエール (著),
鈴木 主税 (翻訳), 佐々木 ナンシー (翻訳), 秀岡 尚子 (翻訳)

 

 

6月の常盤

 

 

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