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駅へ行く途中に、原っぱがありました。夏は気味の悪いほど、丈高く繁茂しますが、今は下枯れで嵩減りし、まだ青いところと、もう茶色に枯れたところとが、ぶちぶちになって見渡せます。その草ぼうぼうへ向いて、労働着姿の男が佇んでいました。知っている人です。同じ隣組の一軒に寄宿する人で、奥さんと二人、裸同然で南方から引揚げてきて、とにかく体力を資本の労働生活だときいています。いまはその仕事帰りとみえます。でも、どうしてそんな原っぱのへりに、肩を落して立っているのでしょう。なにを見てぼんやりしているのでしょう。ちょっと妙な様子なのです。おかえりなさい、といってみました。
*幸田文=明治37年生まれ父は幸田露伴。 あなたの季節には何が見えていますか? |
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