Vol.209「低影響開発(LID)」

2009年度版:環境新聞連載(全14回公開中)

第4回;汚染問題の背景 

米国において水質汚染問題は、カイヤホガ川(オハイオ州)の1936年の火事からはじまっている。カイヤホガ川は、北西部を流れエリー湖に注ぐ河川である。河口にはクリーブランド市(工業地帯)がある。ジヤグア郡、ポーテージ郡、サミット郡、カヤホガ郡を流域とし、下流部は流れが穏やかなこともあり船舶の航行が可能であるため沿川には多くの工業が発達した。廃棄物を産生する施設は「産業発展」の象徴とされ、その陰で1868年~1969年にかけ幾度と無く火災が発生している。川の水が燃えるはずが無く、工場からの排出された廃油などが何かのきっかけで発火したものである。このように歴史的にはかなりの経済的、人的損失をだしている地域であったが、政治的に動いたのは1969年6月22日の火災が発端であった。この時、タイム誌は「ここで溺れることはない、融けてなくなってしまう」の見出しとともに表紙を飾った。連邦政府は窮したが、このことは、その後に政府機関である環境保護庁(EPA)の設立につながった。そして、水質汚染防止法、五大湖水質協定の制定と、全くかえりみられなかった環境保全に向かわせることになる。当時の規制は、「船舶の通行の妨げになる障害物」についてのみであったことから、水質は想像を絶するものであり、流域ではヒルなど最も汚染に抵抗性のある生物すら棲息が確認されなかった。その後は水質の回復を見るものの、現在でも生息する魚類などには異常が続き、汚染のため食用には適さないとの勧告が続いている。

しかし、今日では、このような漸増的な工場管など点源からの水質汚染は、道路、屋根、駐車場などからの、地表流出によって生じている。雨が降るごとに、地表の汚染物質を含んだ流出水が水路を下流へと流れていく。本来ならば、雨を吸収できる自然植生と表土が舗装されたため、この雨水には行くところがない。代わりに雨は、川、湖、沿海の汚染を高速で導いていく、高速道路ならぬ、高速水路となる。埋設管を通じて水路の中に入る雨水流は、直接汚染されており、また、土壌層を調べると浸食をもたらしている。水路の中には、ペットの汚物、道路からの流出、農薬、化学肥料、他の汚染物質などが、直接投入されており、この雨水流は、大部分の米国都市の分離雨水下水道を通り抜けてく。

もっと古い都市、とりわけ北東部五大湖の地域では、雨水は下水(汚水)と同じ管へ流れ込み、合流式下水道をあふれ出させる。水路へのこうした未処理雨水の流入は、人間の作り出した汚染の廃棄であり、また産業廃棄物を捨てることにほかならない。都市が未発達な間は、雨水汚染はある程度の問題であった。しかし、発達するにつれて、我々は、多孔性表面の代わりに、不浸透性のアスファルトや屋根とコンクリートを使用するようになり、流出する雨水の体積は増加し続けている。

雨天時の汚染された雨水と表面流出による汚水の排出は、米国では、水質汚染防止法の下での管理が要求されている。しかし、そのために解決すべき問題は多く、解決策が割高なことも相まって、その進行は手間取っている。本質的には、更なる投資が連邦の指令の下、州や地方レベルに対して必要となっている。が、それ以上に、新たなる思考が必要である。米国の都市の中には、既に地域社会の中に、上手くグリーンインフラストラクチャー(LID)を作る措置を取っているところもある。グリーンインフラストラクチャー技術とは、多機能を用いた汚染削減を供給し、雨水を浸透やろ過させるために表土と植生を利用する自然システムの既得利益に根拠を置いた新しい汚染防止原理を示すものである。

既にグリーンインフラストラクチャーを利用している都市は、それが、従来の雨水管理の代替にできることを十分に感じている。グリーンインフラストラクチャーは、既に、広く海外で利用されているが、中でも、ドイツと日本は、米国と比べると、使用目的を定義することすら、まだまだ初期の段階にある。各国のデータによれば、グリーンインフラは、効果的に雨水流出を還元でき雨水汚染物質を取り除くことができることを示している。また、グリーン設計を実施した都市は既に利益(事例研究を参照すると)を獲得している。日本でもこれを導入しない理由はもはやないと考える。

第5回;都市雨水で発達する問題

一般に、我々がアメリカの開発として知っているのは、大きな都市市街地とそれを取り巻く郊外という、スプロール化したそれであるが、この従来の開発モデルこそが、国レベルで水資源汚染を引き起こしているものである。かつての未開発地区は舗装され、建物が建てられるとともに、屋根や道路などの不浸透性の表面からの雨水流出は、すぐそばの水路へと流れその量は増え続けている。雨水流出量が増加すると、その雨中で運ばれる汚染物質の量も増え、そのことは、地元や地域の水供給の品質を下げ続ける。

開発が進むにつれ、敷地の自然の水均衡を維持しようとする能力は失われ、新しいランドスケープ環境と不浸透性の表面へと変わっていく。以前の、樹木や植生、オープンスペースなどがあった典型的な未開発地区は、雨や雪解け水をそれが降った場所で、ほぼ浸透させることを可能にしており、自然のこの状態の下では、流出する雨の量は、降雨総量の10%未満である。つまり、開発により、自然の植生が不浸透性の表面にとって代わられると、かなりの環境影響があるといえる。流域の場合、不浸透性表面の割合は、その川や湖、河口の健康と直接関係する。そうした水体は、雨水流出水が流れ込む先であり、受け入れ先の湖などの調査では、流域の不浸透性面の割合が10%かそれ以上の場合、水質は低下しているという。そして、水生生物は、不浸透性面の割合がそれ以下のレベルであっても、ダメージを受けることが分かってきた。海洋大気局(NOAA)とペンシルベニア州立大学の両者は、米国国内には現在、2500万エーカーの不浸透性の表面があると見積もっている。この数字は、2002年までに開発された非政府系の土地の約8%にあたるおよそ1億700万エーカー以上の4分の1に相当する。市街地では、不浸透性の表面が土地の被覆の45%以上を占めることも珍しくない。この開発した土地と不浸透性の表面という組み合わせは、雨水緩和の主要な障害を示すことになる。

現存の雨水と廃水のインフラストラクチャーは、水質を保護し改善するのに適切な方法を用いて雨水を管理することができないでいる。それまでの標準的なインフラストラクチャーと管理策は、都市環境からの雨水流出の量を減らすこともできず、また、流出水から効果的に、汚染物質を取り除くこともできない。

市街地での雨水管理は、雨水の効率的な集水と送水から主として成り立っているが、そのために現在一般に使われているシステムは2つである。すなわち、分流式下水道と合流式下水道である。分流式下水道では、雨水管はただ雨水を集め、わずかな処理を施したのみで、受け取り先の河川へと放流される。その際に、雨水とそれに含まれる汚染物質も水の中に放される。一方、合流式下水道は、下水を集めるのに使う管と同じ管で雨水を集め、下水と雨水と両方の混じった水が地方自治体の雨水処理場へと送られる。都市の表面を洗い出しながら横切る大量の雨水と、分流式下水道からの放出は、汚染物質の含まれた混合物となり、表2に示されるように沈殿する。分流式下水道の雨水汚染は、国の総ての水体に影響するため、その潜在的可能性の大きさは計り知れない。

2002年の遊泳できる海水浴場の閉鎖における21%は、雨水流出に起因する。表は、米国のどの雨水が重要な汚染源になっているのかをモニターして評価したものである。

分流式下水道からの汚染は、地域の大多数に影響する問題となるにもかかわらず、合流式下水道から生じる汚染は、米国北東部、グレートレーク地域と太平洋側北西部などの、古くから栄えていた都市に集中して見受けられる地域の問題となっている。

合流式下水道は、20世紀半ばよりも前に、都市下水処理の使用目的に先立って、設置されたもので、31の州とコロンビア特別区と746の地方自治体がそれを採用している。それは、もともと、コスト効率のよい方法で、下水と雨水を都市から遠ざけて輸送し、小川へと放流させるというシステムである。そして、地方自治体の下水処理施設は、下水を処理し水質を護るために設置されているので、雨の多いときには、合流式下水道の限定処理能力が明らかになった。乾燥期や雨の少ない時期には、雨水流出と汚水(未処理下水)は、両者が扱われる都市の下水処理場まで運ばれ、その混合形態のまま放流される。もし降雨がよりひどくなれば、合流式下水道は、集水システム以上の雨水が入り込み、また、汚水処理能力以上のものが入り込み、圧倒される。

こうした状況下では、下水や雨水流出が、地下室の中や街路へとあふれ出るのを抑えるというよりはむしろ、システムを通って、近くの水体に直接、汚水と雨水を放出するように設計されている。ある事例では、下水管からのオーバーフローがすでに発生しているにもかかわらず、地下室や街路への浸水がさらに起こる。そして、時にわずかな降雨でさえ、このような合流式下水道のオーバーフローを招く。例えば、ワシントン州D.C.の合流式下水道などは、わずか0.2inの降雨によりあふれ出ることがある。合流式下水道からの放出は、雨水と下水の混合した汚水であるため、それは、環境にも健康状態にも重大な問題となる。合流式下水道に含まれるのは、一般に、汚染された雨水とバクテリア、ウイルス、養分、酸素を枯渇させる二次物質などを含む未処理の汚水である。合流式下水道は、バクテリアやウイルスへの潜在曝露のために、放出場所を取り巻く地域に対して、直接的に衛生への懸念を生み出す。推計によれば、典型として、合流式下水道から放出される水は、15~20%が下水で80~85%が雨水になることが示されている。毎年、アメリカ全土では、8500億galの未処理汚水と雨水が合流式下水道からのオーバーフローになり放出されている。下の表は、都市の雨水流出が水質に与える影響を示している。

TABLE: 都市雨水の水質影響

水体の種類 雨水汚染源としてのランク %の影響を受けた害された液剤
海洋海岸線 1 st 55% (miles)
河口 2nd 32% (sq. miles)
五大湖 2nd 4% (miles)
海岸線湖 3rd 18% (acres)
4th 13% (miles)

 

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